アルハイゼンと一緒に仕事をするフィッシュル 中編
教令院書記官、アルハイゼン宅。
普段、彼はこの自宅で天才建築家のカーヴェと共に住んでいるが、今日はその傍にもう一人、別の人物が携わっていた。
大マハマトラ、セノ。
スメール国内で法を破ったり治安を乱す存在を捕まえる、マハマトラの集団を束ねる者であり、アルハイゼンの友人の一人でもある。
セノ「……というわけで、今回、死域対策として、動けるのが俺だけしかいなかったから、俺が来た。
それに、雷元素を操れる者が必要と聞いているからな。
最も、俺の場合はあまり遠い場所に離れている所に元素力を飛ばすことは出来ないが……」
アルハイゼン「大マハマトラが直々に動くとはな。少し骨が折れる任務になりそうだ」
カーヴェ「すまないね、僕も一緒に行ければよかったんだが……」
アルハイゼン「君は自分の依頼人の納期が迫っているんだろう?無理をすることは無い。
それに今回は、冒険者協会へ依頼を出している。そろそろ到着する頃だろう」
コンコン。
ドアがノックされる。
アルハイゼン「どうぞ。ドアは開いている」
中に入ってきたのは、金髪ロングヘアーで左目を前髪で隠した少女が一人。
その横に携わっている、一匹の黒いカラスのような生き物。
フィッシュルは建物の中に入ってくる。
フィッシュル「オズ……思っていたより立派な邸宅ね」
オズ「スメールは領地が広いですからな。邸宅も広い所が多いのでしょう」
アルハイゼン「君が冒険者協会の者か?」
フィッシュル「えぇっと……」
アルハイゼン「……?違うのか?」
フィッシュル「……コホン!わたくしは断罪の皇女、名はフィッシュル・ヴォン・ルフシュロス・ナフィードット。
こちらは皇女たる私の従者、オズヴァルド・ラフナヴィネス。
運命の召喚に応じ、ここに降臨する。
運命の囁きが聞こえる、わたくしの名を呼んでいる……
天地創造、分け与えられたエデン……わたくしこそが、断罪の皇女!」
アルハイゼン「………」
オズ「初めまして。こちらはフィッシュルお嬢様、私はオズ。
冒険者協会の依頼で、あなたがたの助力に参りました」
カーヴェ「おい!こちらの人、どこかの国の皇女様なのか!?冒険者協会は何を考えているんだ、そんなお方を遺跡調査のための捜査員に駆り出すなんて!」
セノ「今、断罪の皇女……と言ったか。
冒険者協会から応援に来る者の名前は聞いていたが、皇族だとは聞いていなかった。
こちらの手違いだ、すまない。
どこの国の者だ?あなたが皇族なら、それにふさわしい扱いをしなければならない。
必要であれば、あなたの身に危険が及ばぬよう、マハマトラ達に収集を掛ける」
フィッシュル「わたくしは幽夜浄土の皇女」
カーヴェ「ゆうやじょうど?聞いたことない国だが……アルハイゼン、知っているか?」
アルハイゼン「いや、聞いたことがない」
セノ「フィッシュル皇女殿下、俺はスメールの秩序を守るマハマトラを束ねる、大マハマトラのセノだ。
そしてこちらが今回の依頼を出した、教令院書記官のアルハイゼン。
後、こちらは凄腕建築家のカーヴェ。
カーヴェは事情があって今回の依頼にはついてこないが、俺が同行する。
皇女殿下の身には何人たりとも傷一つつけさせん」
フィッシュル「…………(オズ!この人達、本物の偉い人達じゃないの!)」
オズ「…………(そう言われましても。教令院の書記官が依頼人と言うあたりで、想像ついたことではありませんか)」
アルハイゼン「しかし、他国の皇族を遺跡調査の捜査員に差し向けるとは……冒険者協会は一体何を考えているんだ。
セノ、使い走りを頼んで申し訳ないが、何かの手違いではないか協会に確かめてもらえないか?」
フィッシュル「そ、その必要はないわ!」
アルハイゼン「ふむ?」
フィッシュル「この私の、雷光の弓矢とオズの連撃に掛かれば、例え宝盗団であっても、遺跡守衛であっても、全て塵芥に過ぎぬのだから」
アルハイゼン「そんなことは聞いていない。あなたがどれだけ強かったとしても、国の皇族を連れて危険な調査に行くなど、有り得ないことだ。非常識にもほどがある」
カーヴェ「ところで、その幽夜浄土、でしたっけ?
どこにある国で、どんな文化があって、どんな名物があるのか教えてくれないか?
特に建築デザイナーとしては、どんな気候でどんな建物があるのか、凄く気になる」
フィッシュル「罪深き者に断罪を下し、運命に認められた人に祝福を送り、果てしない幽夜浄土でこの世で許されない夢を受け入れることが、断罪の皇女が背負う重い使命!疑うことは許されないわ」
カーヴェ「……すまない、あなたが何を言っているのか全く理解できない」
オズ「皆様が辿り着くことが出来ぬ遠き世界の果てに存在するため、説明できないと申し上げております」
セノ「そうなのか?だが、何故そんな人が冒険者協会から……」
オズ「お嬢様は冒険者協会の調査員でございます」
フィッシュル「それは表向きよ!……ハッ!コホン」
アルハイゼン「……フィッシュル皇女殿下、不躾な事を聞いて申し訳ないが」
フィッシュル「し、質疑を許そう」
アルハイゼンの、落ち着いた、しかし少し苛立った感じの声を聞いて、フィッシュルは内心怯えていた。
その雰囲気は、モンドで依頼人と意思疎通が出来ずに相手を苛立たせた時の、依頼人シスター・ビクトリアの声のトーンとそっくりだったからだ。
アルハイゼン「あなたは本当に皇女殿下なのか?
いや、聞き方を変えよう。
君の言う『幽夜浄土』なる国は本当に存在しているのか?」
カーヴェ「お、おい、アルハイゼン」
フィッシュル「ぶ、無礼者ッ!!」
アルハイゼン「無礼は承知。だが、君の言っていることは今一つ現実味に欠ける。
まず、本当に君が皇族なら、顔写真つきの身分を証明するものを見せたまえ。
顔写真が無理でも、皇家の家紋を入れたナイフやペンダントなどの小物などすらないのか?
それも無いなら、君の身分を確認するには紹介した冒険者協会が適任だろう?
皇女と言うなら皇国なのだろうが、国歌は?国旗は?皇国民の大まかな人数は?
皇国の首都の名前は何と言う?
初代皇帝の名前は何と言うんだ?
まさか、年端も行かぬ少女である君が初代皇帝なのか?
おかしいな。そんな国がテイワットに出来たのなら、草神様が知らぬはずがない。
これは皇族なら当たり前に即答できることばかりだろう?」
フィッシュル「………ッッ!!」
アルハイゼン「さっきカーヴェが聞いた質問には答えられないのか?
幽夜浄土がどこに存在するのか。
どんな文化があるのか。
どんな名物があるのか。
どんな歴史があるのか。
特に、皇族であれば、自国の歴史や文化など、知っていて当然だろう。
俺達スメールの民ですらスメールの成り立ちや文化は知っているくらいだからな。
名物や文化くらい、皇族どころか一般の国民でも知っているだろう?
……君は答えられないのか?俺は答えられるが」
オズ「書記官殿、それは……」
アルハイゼン「君には聞いていない。俺はそこの『自称』皇女殿下に聞いている」
カーヴェ「またアルハイゼンの悪いクセが出たな」
フィッシュル「だ、誰かこの男をつまみ出しなさい!
断罪の皇女たるこのわたくしに、何たる無礼!
本来であれば打ち首であるところ、せめてこの場から追放するだけに留めてあげるわ」
セノ「そうは言っても、今回の依頼人はこのアルハイゼンなんだ」
アルハイゼン「そもそも、ここは俺の家だ。
出て行くとしたら君の方だろう?
もし君が本当にどこかの国の皇女で、俺の言ったことが過りで、君の言ったことが真実だったら、草神様を通して外交ルートを用い、丁重に謝罪する。
俺をスメールから追放せよと皇女が言うなら、それでも良い。
何なら、そのように手配するよう草神様へ掛け合うが?」
フィッシュル「あ、あなた本当に馬鹿ね!何故わたくしがそんなことをしなければならないの!?」
アルハイゼン「そんなことも分からずに、人を馬鹿呼ばわりするのか?
俺は今、他国の皇族へ対して無礼を働いた。
国同士のやり取りで、他国の皇族に対して無礼を働いたら、これは外交問題だ。
場合によっては俺は死刑になってもおかしくない。
それだけのことを俺はしたんだ。
皇族なら、そのくらいの事は知っていて当然だろう?
……君が本当に『皇女様』ならば、だが」
フィッシュル「………」
アルハイゼン「君が本当に『皇女様』なら、君のすべきことは、すぐにここを出て自分の国に帰り、スメールに対して厳重抗議を入れることだ。
俺の言ったことは「皇女様の慈悲」で許されるような生易しいものじゃない。
それが出来ず、「断罪の皇女たるわたくしが許そう」とか言って有耶無耶にしようとするなら、君はただ空想の皇国の皇女を気取っている、ただの痛い小娘に過ぎない」
フィッシュル「………ッッッ!!」
セノ「おい、言いすぎだ」
アルハイゼン「何か反論することはあるか?」
オズ「……ありません」
フィッシュル「オズ!!」
アルハイゼン「そのオズと言う従者……そうか、神の瞳の力で生み出したのだな。
自分の空想を形にするのは大した力だが……その力は認めるが、君は人間性に大きな問題がある。
君は冒険者なのだろう?
他人の困りごとを解決して、報酬を受け取るのが仕事だろう?」
オズ「そうですな」
アルハイゼン「一般に、冒険者に頼むことと言えば、自分では解決できないが、解決しないと生活や人生に大きな不利益が起きることがほとんどだろう。
そんな依頼を受けるのだから、冒険者は依頼人とコミュニケーションを取り、信頼関係を保つのは当然のことだ。
俺は冒険者ではないが、そのくらいのことは分かる。
そうしないと、仕事にならないだろう。
君自身が一番良く知っているのだろうが」
オズ「耳が痛いですな、お嬢様」
アルハイゼン「空想世界に入り浸り、有りもしない国の皇女だと嘯き、依頼人を混乱させる。
そんなことが許されるのは、せいぜい小さな子供までだろう。
冒険者がそんなことを言っていたら、ただの変な奴、痛い小娘と思われて誰も依頼などしないだろう。
したとしても、仕事にならない。
全く……親の顔が見てみたいものだ。
次に、その口調も無駄に分かりづらく、オズを介しているため会話のテンポも悪い。
君は自分が依頼人だったとしたら、どうだ?
己の身分を詐称し、わけのわからない妄言を垂れ流す相手に、自分の人生を左右する重大な依頼を任せたいと思うか?
君は、そんな相手に依頼するのか?俺はしないが」
フィッシュル「うぅ……」
カーヴェ「いい加減にしろよ、アルハイゼン!彼女、もう泣きそうじゃないか!大体君は、いつもいつも言い方に配慮ってものが足りない!」
アルハイゼン「言い方ひとつ変えたところで、彼女の評価が変わるわけじゃない。誰かが指摘してやらねばならないことだろう。
場合によっては身分詐称、公務執行妨害で罪に問われる可能性だってある」
セノ「それはちょっと拡大解釈すぎるが……空想の国なら詐称された被害者(国)は居ないし、公務執行妨害と言っても害意があったわけではないから、せいぜい口頭での注意くらいだ。起訴する必要すらない」
フィッシュルの両肩がびくりと震える。
カーヴェ「アルハイゼン!貴様、この子がスパイか犯罪者だとでも思ってるのか!?
変わった子ではあるけど、僕は、この子が悪人だとは思えない!
……フィッシュルさん、アルハイゼンが事を大きくしたら、僕もセノも絶対君を守るから……」
アルハイゼン「そんなことは言ってないだろう?
俺は『こんなことを続けていたら、いずれそうなってしまうぞ』と注意しただけだ。
……まあ、普通は親が指摘するんだろうが、この調子では親の育て方も良くなかったんだろうな」
カーヴェ「おい!幾ら何でも、その言い方は悪意を感じるぞ!」
アルハイゼン「まあ、彼女がどんな冒険者人生を歩もうが、俺には関係のない話だが」
外に行こうとするアルハイゼン。
セノ「アルハイゼン、どこに行くんだ?」
アルハイゼン「冒険者協会に、今回の依頼は無かったことにするよう伝える。
雷元素の使い手ならセノ、君がいる。
雷元素の弓の使い手はこの国ではまだ人員がいないはずだが……君が雷元素を纏わせた槍を投げるなどすれば、弓がなくとも何とかなるだろう。
俺が戻ってくるまでに、その子供はつまみ出して冒険者協会に帰らせろ。
この家にいる者は皆、外出するからな」
フィッシュル「うぅうぅぅ……えぐ……ひっく……ひっく……」
とうとうフィッシュルは座り込んで泣き出してしまった。
カーヴェ「ああもう、アルハイゼン、君はいつもそうやって……
フィッシュルさん、泣かないで……
あいつは、ああいう言い方しかできない、他人の気持ちが分からないガサツな奴なんだ。許してあげてくれないか……
えっと、ハンカチどこだったかな……」
泣き出したフィッシュルをその場に置いて、アルハイゼンが玄関から出ようとしたところ、小さい銀髪の女の子がそこに立っていた。
アルハイゼン「……草神様」
ナヒーダ「全部見ていたわ。
アルハイゼン、あなたの理論立てて完璧な状況を作ろうとするところはとても素晴らしい長所だけど、魚は清すぎる川では生きられない。
空想を全て否定しては、いけないわ」
アルハイゼン「しかし」
ナヒーダ「派遣してくる人員を冒険者協会に確認したけど、フィッシュル……彼女は間違いなく冒険者協会から派遣された調査員よ。
雷属性の神の目を操る、ね。
弓使いであることも確認を取っているし、モンドで依頼を解決した実績もある」
アルハイゼン「……」
ナヒーダ「セノの槍を投げると言ったけど……調査目標であるダーリ遺跡は今、死域が発生している。
死域の中で武器を手放したら、どんなに危険なことかは理解できるわね?」
アルハイゼン「……はい」
ナヒーダ「もしあなたが『気に入らないから』という理由だけで彼女を切り捨てた場合、調査の危険度が上がってしまう。
それは、あなたに言わせれば『非合理的』ではないかしら?
少しでも、あなたたちの安全を確保するために冒険者協会に依頼することにしたのに……」
アルハイゼン「……申し訳ない」
ナヒーダ「彼女と、彼女の友人に、謝れるわね?」
アルハイゼン「友人……冒険者協会は、あの者を一人で派遣したわけでは無かったのですね」
セノ「俺が説明しようとしたんだが、その前に草神様がいらっしゃったので、手間が省けました」
モナ「あなたが教令院書記官のアルハイゼンさんですね。
私はアストローギスト・モナ・メギストス。
冒険者協会にも籍を置いている、占星術師です。
そこのフィッシュルと共に、あなた方の依頼を解決するためにモンドからやってきました」
カーヴェ「君達はモンドからやってきたんだね」
フィッシュル「うぅ……モナ、私……私……」
モナ「よしよし、遅れてごめんなさいね。冒険者協会でナヒーダさんと会って、あなたのことを話していたから、遅れてしまいました」
ナヒーダ「アルハイゼン、彼女に対して謝れるわね?」
アルハイゼン「……フィッシュル、少し言い過ぎた。
君を傷つけてしまったな。すまない。君の力が必要だ。手伝ってもらえるか?」
フィッシュルはモナの胸の中で泣いていたが、その顔を上げてアルハイゼンの方を向くと、こくり、と頷いた。
カーヴェ「アルハイゼンが、謝った……これは明日は台風が来るんじゃないか」
セノ「草神様に言われたら形無しだな。ほら、君には笑顔が似合う。笑みを浮かべて、ほら、エミを……」
モナ「……え?」
フィッシュル「……ふぇ?」
オズ「……あなた、何故お嬢様の真名を存じているのです?」
セノ「冒険者協会から聞いた。それより今のは面白くなかったか?エミと笑みを掛けてみたんだが……」
フィッシュル「この人、何言ってるの……」
モナ「あははっ!いいですよ、あなたサイコーです。面白かったですよ」
セノ「おお、本当か?今のギャグは面白かったか?」
モナ「トコトンまで最悪になってギスギスしてた空気をブチ壊してくれましたから」
セノ「そうか……良かった。それなら、他にももっと温めていたギャグがたくさんあるのだが……
この前、魔剣と呼ばれる剣を持つ剣士と戦った時に、俺はこう言った……」
モナ「あ、それは今度で」
セノ「そうか……」
アルハイゼン「……そう言えば先程、アストローギスト・モナ・メギストスと言ったな。
もしかして、君はフォンテーヌのスチームバード新聞で占星術のコラムを書いていないか?」
モナ「おや、知ってたんですね。スメールでも読まれていたとは光栄です」
アルハイゼン「俺は仕事柄、他国の記事も良く目にするからな。君の優秀さは良く知っているつもりだ。
そうか、フィッシュルは君の相方だったのだな。それなら腕は信用できるのだろう」
フィッシュル「………」
モナ「ああもう、フィッシュル、あまり怖がらないでください」
ナヒーダ「ダーリ遺跡近辺で最近、死域が多発発生していると聞いたわ。そこを調べに行くのでしょう?
教令院の調査によると、雷元素を必要とするところがあったとも。
スメールには雷元素を扱う弓使いは、今の所見つかっていないの。
フィッシュル、あなたの力が必要なの。お願いできるかしら?」
オズ「お嬢様」
フィッシュル「わたくしと、臣下のメギストス卿にかかれば、見事解決してご覧に入れるわ!」
アルハイゼン「……草神様。俺は、あの中二病のロールプレイにも付き合わないといけないのですか?」
ナヒーダ「そこは程々で良いと思うわ。逆にあなたも気を滅入らせないようにね」