原神×クロスアンジュ 第53話『アルハイゼン、パワハラの疑いでナヒーダに叱責される』
ナヒーダ「ヴィヴィアン、一つ依頼を受けてくれないかしら?」
ヴィヴィアン「ナヒーダ様、どしたの?」
ナヒーダ「アルハイゼンがね、ネバンエンデの戦いの時から有給を取って、スネージナヤに行ってる間、教令院の書記官の仕事は1年契約で臨時書記官に引き継いだのだけど……」
ヴィヴィアン「うんうん」
ナヒーダ「あくまで正式な書記官はアルハイゼンだから、重要な事項については事後報告でアルハイゼンに連絡してるのよ。
死域が生まれたことで住まいをなくした人に、仮住まいを提供するのも教令院がやっているんだけど」
ヴィヴィアン「まあ、そうだよねえ」
ナヒーダ「今回の被害者は、たまたま、子供が産まれる寸前だったから、仮住まいの手配を正式ルートで待っていたら間に合わなかったの。
臨時書記官が特別に残業して、仮住まいを手配出来たから、その人は出産に間に合って、そこまでは良かったの」
ヴィヴィアン「アルハイゼンが文句を言ったとか?」
ナヒーダ「そうね。
『子供が産まれるのが目出度いことなのは分かる。
だが、教令院が一人の民のために特別扱いをするのはご法度だ。
一人だけ特別扱いをしたら、それを聞いた他の民が自分も、自分もとやってくるだろう。
それを全部君が捌くのか?
それなら良いが、君は1年後、もういないんだろう?
そうなると、君の尻を俺が拭くことになる。
良いか、君はあくまで臨時書記官なんだ。自分の立場を理解しろ。
ああ、俺はそろそろ朝食なので、これで失礼する』
と、言ってたらしいわね」
ヴィヴィアン「……完全なパワハラだね。
しかも、自分は悠々と休みを取りながら、そんなことを言われたら、誰だって不愉快だと思うよ」
ナヒーダ「私が理論建ててアルハイゼンに説明するのは簡単よ。
だけど、それでは彼はただの情報として処理してしまい、何が悪かったのかに気付けない。
『言葉遣いが悪かったから、草神に叱られてしまった』で終わってしまう。
彼は人の感情や機微に疎すぎる。
能力は高いし、理論建てて進める物事は、とても合理的なんだけどね。
人間は、己の経験で成長する。だから敢えてヴィヴィアンに頼みたいの」
ヴィヴィアン「つまり……あたしに、『ヴィヴィアン砲・対アルハイゼン戦・本気モード』を作ってほしいってこと?」
ナヒーダ「でも、アルハイゼンそのものを壊してしまうことは望んでない。
自分がどんなに酷いことをしたかを、自分で気づいてほしいの。
彼が人の機微を読み取るのは苦手でも、人の感情を分かろうとすれば、きっと彼は成長できるから」
ヴィヴィアン「んー……つまり、言うなら炎神様に作ったようなヤツだね。
いわば『本気モード・叱咤編』みたいな感じの。
本人の許可を得られれば、いいよ」
ナヒーダ・アルハイゼン間のディスコードでのやり取り
ナヒーダ「アルハイゼン、あなたヴィヴィアン砲について興味を持っていたわよね?
自分で受けてみる気は無い?
ヴィヴィアンは、本人の許可が取れれば作るって言ってたわ」
アルハイゼン「……その必要はありません。
データは観察だけで十分です。
俺自身が体験する必要性までは、無いでしょう」
ナヒーダ「しかし、あなたが最も質の高いデータを求めるには、直接の体験に勝るデータは無いわ」
アルハイゼン「……ふむ。確かに、実体験に勝るデータは無い」
ナヒーダ「それに、あなたの普段の言動や行動が、周囲にどんな影響を与えるのか、より良いデータとして把握できるようになると思うの。
スメールの知性のためにも、あなたの協力が必要だわ」
アルハイゼン「……仕方ありませんね。
これも、知識の探求のためだ、いいでしょう。
ただし、ヴィヴィアンが良く見せる下劣な方法を俺の精神に介入して見せることは、断じて許可しない。
それだけは、しっかりと伝えておいてください」
ナヒーダ「ええ」
ヴィヴィアン砲・対アルハイゼン・叱咤編
アルハイゼンは、スネージナヤで有給を満喫し、ネバンエンデ戦のストレスを消化していた。
スキーに疲れた夜、アルハイゼンは夢を見た。
ヴィヴィアン「久しぶりだね、アルハイゼン。
あなたは、原神×クロスアンジュ 第37話『甘雨の暴走、帝君の叱責』の、甘雨の暴走を「くだらない。こんなことをわざわざ俺に報告するな」と切って捨てたよね。
確かにあの時は、鍾離先生とナヒーダ様によって事なきを得たけど、それはあくまで結果論。
教令院の書記官様が、『たまたま被害が出なかったから、これはもう良いだろう』なんて言うつもり?
こんな未来だって有り得たんだよ?
世界樹に記録されている、もしもの世界に行ってみなよ」
甘雨がアンジュとサリアを拷問にかけ、ヴィヴィアン砲・本気モードを食らって発狂し、刻晴に討たれ、刻晴も自害した未来。
サリアが死亡したことで、アル・ワース側の契約を守る一角が無くなり、ジルがサリアの復讐を決意。
ジルはアマリに「テイワットに責任を取らせる」と持ち掛け、ヴィヴィアン砲・七神向けがある以上、負けることは絶対に無いと確信。
アマリは「ワタルくんには被害無さそうですし、好きにしていいですよ」と、ジルに軍事侵攻について全権を委任。
アル・ワースとテイワットで全面戦争が起き、アルハイゼンの住むスメールシティも空爆を受け、避難所で大勢の避難民と一緒に生活していた。
何とか少しでも心の平穏を取り戻そうと、コーヒーを飲んでピタを食べようとしたアルハイゼンだったが、そこに避難民が押し掛ける。
避難民A「書記官様、そのピタを譲ってください!
うちには小さい子供がいるんです!
書記官様ともあろう方が、皆に見える場所で自分だけ食事なんて!」
避難民B「書記官様、停戦の交渉はどうなっているんですか!?
いつもアル・ワースの機動兵器や魔従教団の術士が徘徊し、とてもじゃないけど落ち着いて生活できません!」
避難民C「書記官様、クラクサナリデビ様はご無事なんですか!?
魔従教団が草神様を捜索してると聞いて、気が気ではありません!」
アルハイゼン「……これは」(気力-10)
ヴィヴィアン「鍾離先生は、甘雨の刻晴に対する想いを理解して、『甘雨の願いは、刻晴と一緒にいる事じゃないのか。それすらも捨て去るつもりか』と突き付けた。
ナヒーダ様は、甘雨の想いに寄り添って『ヴィヴィアンの嫌いな食べ物を食べさせるくらいの、ささやかな仕返しなら良いんじゃない?』と投げかけて、甘雨の気持ちを解きほぐした。
もし、鍾離先生もナヒーダ様も、あの時いなかったら。
あなたが『契約内容の重要性』『契約を破って報復に出たら、どうなるか』を淡々と説明すれば、甘雨は止まったかもしれない。
ナヒーダ様みたいに人の感情に寄り添うことは出来なくても、甘雨を止めて、何が起きてるかを刻晴に伝えるくらいは出来るよね?
あなたが『くだらない』と切って捨てた、人の感情が、終わりのない混乱を、秩序の崩壊を起こしたんだ」
アルハイゼン「人は、こんなに愚かなのか。復讐のための戦争なんて、非合理の極みじゃないか。例え仇を討っても、七神を全て滅ぼしても、死んだ者は帰って来ないんだ。何も建設的なことは無いじゃないか」(気力-10)
ヴィヴィアン「あははっ!
アルハイゼン、『賢者は歴史に学ぶ、愚者は経験に学ぶ』って言葉、知らないの?こんなに知識を探求してるのに!
そして、人間のうち実に99%が愚者で、賢者と言える人なんて1%にも満たない。
つまり、人間は感情の生き物で、非合理的な生き物なんだ。人の歴史を見てみなよ。
石器時代の頃から、人は戦争ばかりしているじゃない?
人間が皆、合理的な生き物なら、戦争なんて起きないんだよ」
アルハイゼン「……!!」(気力-10)
ヴィヴィアン「アルハイゼン自身は神の目があるから、暴徒に襲われても、並の術士に襲われても、撃退出来るかもしれない。
でも、それだけの力を持っていたら、例え教令院をやめて砂漠に逃げて引きこもっても、山に逃げて引きこもっても、あちこちで民が『守ってください』『助けてください』って言ってくるだろうね。
あなたの求める静寂は、この世界にはないんだよ!」
避難民A「書記官様!
私達大人は数日食べなくても良いですから、子供だけでも食料の配給を遅らせないでください!」
避難民B「書記官様!
アル・ワースの機動兵器は空から空爆を仕掛けて来るので、スメールはどうしようもありません!
魔従教団の術士は私達を掴まえて、殺す前に凌辱したり拷問したり、やりたい放題です!
その上で『テイワットが契約を破ってサリアを拷問の上、殺したから、こうなったのだ。お前らが悪いのだ。ジル総司令の指示だ』
なんて……その契約を破った仙人の首を差し出したなら、それで終わりじゃないですか!
私達が何をしたと言うんですか!?」
避難民C「書記官様!
クラクサナリデビ様まで殺されてしまったら、スメールはおしまいです!」
アルハイゼン「全部、俺一人の力でどうにかできることを遥かに超えている……各個人が出来ることをするべきだろう……俺に頼ってどうにかなるわけないだろう……」(気力-10)
避難民A「書記官様!」
避難民B「書記官様!」
避難民C「書記官様!」
アルハイゼン「やめろ……やめてくれ……」(気力-30)
アルハイゼンが発狂しそうになったところで、カーヴェが割り込んでくる。
カーヴェ「君達、少し静かにしてやってくれ。
アルハイゼンは、うるさい環境が苦手なんだ。
あなたは子供向けの食糧が必要なんですね?
僕のパンで良かったら差し上げるから、食べさせてあげてくれ。
それから、子供用の配給を最優先にするようにしよう。
あなたのお子様の無事を、僕も祈っているよ」
避難民A「ありがとう、ありがとう!」
カーヴェ「停戦の交渉は、正直言って、難航している……サリアを失ったジル司令の恨みは根深い。
あの人は、サリアのことを本当に妹のように可愛がっていたから……
アンジュの容態については……済まない、こちらには情報が入って来ないんだ。
アンジュが無事なら、ヒルダと連絡がつけば、もしかしたら……
魔従教団は、アマリ教主と話がつけば……
彼女だって、救世主ワタルに、この惨状を見せても良いとは絶対に思わないはずだ。
絶対に僕達は諦めたりしない。だから、君も生きてくれ」
避難民B「はい……はい……」
カーヴェ「クラクサナリデビ様は、レンジャー隊と共に砂漠の遺跡の地下深くへ避難されている。
スメールの神は、璃月や稲妻やナタと違って武神ではないからな……だが、僕達が必ず守って見せる」
避難民C「分かりました……」
殺到していた避難民たちが去っていく。
カーヴェ「ふぅ……アルハイゼン、君も最近眠れてないんだろ?」
アルハイゼン「あ、ああ……よく分かったな」
カーヴェ「僕達がまだ教令院の学生だった頃、君がしつこい先輩に絡まれて、夜通し遊び惚けるのに無理やり付き合わされた後みたいな顔をしているからな」
アルハイゼン「……あったな、そんなことも」
カーヴェ「僕が見ているから、3時間ほど仮眠するといい。君の睡眠時間くらい、確保して見せるさ」
アルハイゼン「……ありがとう」
カーヴェ「……ええっ!?
アルハイゼンが、お礼を言った!?」
アルハイゼン「俺だって、助けられたら礼くらい言う。
……だが、カーヴェ。
さっき君は避難民にパンをあげていたが、君の食糧はあるのか?」
カーヴェ「ははっ……実はもう三日食べて無くてね。ふらふらだったんだ」
アルハイゼン「はぁ……俺が寝てる間に、俺のピタを半分食べていいぞ。
お前が俺の傍で倒れられたら、余計に仕事が増えそうだからな」
アイマスクと遮音用のヘッドフォンをつけて眠りについたアルハイゼンの夢枕に、再度ヴィヴィアンが立つ。
ヴィヴィアン「あたしは、この方法であなたの心を壊すことも出来た。
雷電影や刻晴にやったように、発狂して、壊れて行くアルハイゼンを嘲笑いながら、踏みにじることも出来た。
カーヴェがもし戦死していたら、きっとあなたは壊れてたでしょ?
カーヴェが戦死していたら、戦争を止める人がいなくなり、戦禍は広がる一方で。
ちなみに、その時のアルハイゼンは、教令院を辞めて砂漠に逃げても難民が追いかけてきて……
最後は離島(稲妻の離島ではなく、言葉通りの離島)に逃げ込み、人との関わりが無くなった結果、大好きな知識の探求も出来なくなり……
行く末は、ただの
『島にたった一人で住む、口を開けば理屈だけのくせに、世の中のことを何も知らない、頭でっかちの頑固じじい』
『戦禍の被害者に唾を吐き、自分がそう思うからそうなんだ、などとエビデンスにもならない屁理屈を並べ立てる』
『自分は頭がいいと思い込んでるだけの、世間知らずの無能』
になる未来を用意してた。
アルハイゼン「……ヴィヴィアン。
非常に不愉快だが、一応聞こう。
……その時の俺は、何を言っていた?」
ヴィヴィアン「その老害ハイゼンね。『俺が正しいと思うから正しいんだ』
『俺が間違ってると思うから間違っているんだ』
『つまり俺の考えは正しい。いつも正しい。これは最高の理論だ』
なんて、子供並の理屈……いや、理屈どころか屁理屈でも無い、偏屈なことを繰り返してたよ。
最早、知のカケラも残ってなくて、草神様の神の目すら光らなくなってたね。
……詳しく聞きたい?例えば、たまたま島にたどり着いた船乗りが持ってた食料を見た老害ハイゼンがね……」
アルハイゼン「……!!……いや、言わなくて良い。
恐らく……船乗りに『食料を寄越せ、俺は今日食べる魚が釣れなかった、君は持っている。持たざる者に持つ者が振舞うのは助け合いだ、それが知識ある人間だ』などと迫っていた……とかだろう?」
ヴィヴィアン「流石アルハイゼン、すぐに予測できたね。
釣竿を振り回しながら、そんなことを言ってたね、老害ハイゼンは。
船乗りは『頭のおかしいジジイに会ってしまった』と判断して、持ってた魚を1匹投げて、そのまま去って行ったね。
『魚が欲しいなら素直にそう言えば良いのに。少し休ませてくれれば1匹くらいあげるのに』と哀れまれてたよ。
……でも、あたしはその道は、選ばなかった。
ナヒーダ様が『アルハイゼンそのものを壊してしまうことは望んでない。自分がどんなに酷いことをしたかを、自分で気づいてほしいの』と、付け加えて来たから。
草神様に感謝するんだね。
彼女は知恵や権能だけで神の座についてるわけじゃない。
人の心の機微を誰よりも理解し、人の心を大切にしている。
だから放浪者は、ファトゥスから助け出された後も、彼女を慕っているんだ。
……人間は、感情の生き物なんだ。
くだらない、と切って捨てることが、どれほどに愚かなことか理解できるはず。
ここまで言えば、賢いあなたなら、あなたは何を理解すべきか、そして何をすべきか、分かるよね」
アルハイゼン「夢か……臨時書記官への謝罪と、先の叱責の撤回を書いて、スメールに手紙でも送るか。緊急の公務が入る時のルールも作らんといかんな。……送り先は、カーヴェに任せれば、臨時書記官にも伝えてくれるだろう。
それにしても……
『口を開けば理屈だけのくせに、世の中のことを何も知らない、頭でっかちの頑固じじい』
『戦禍の被害者に唾を吐き、自分がそう思うからそうなんだ、などとエビデンスにもならない屁理屈を並べ立てる』
『自分は頭がいいと思い込んでるだけの、世間知らずの無能』
か……自分がそうなる未来があったかもしれないと……恐ろしいな」
後日
ヴィヴィアン「サリアがこれ見て、
『私、死んでるの!?』
『アレクトラが、私のために……』
『やっぱりアル×カヴェ、尊いわっ!ヴィヴィアン、私と一緒に同人誌作りましょう!』
って言って来た」
ナヒーダ「ふふっ……相変わらずね。でも私は、サリアのそういうところ、好きよ。
昔みたいに、アンジュに対する嫉妬や劣等感に苛まされてるより、よっぽど生き生きとしていて、見てる方も気分が良くなるもの」
ヴィヴィアン「人の夢枕に立つって凄い力だよね!
ナヒーダ様と組めば、あたし無敵だよ!
現実では物理火力のアンジュと精神火力のあたし、夢の世界ではナヒーダ様の力とあたしのIT技術で、どんな夢だって相手に見せられるもの!」
ナヒーダ「ふふっ、そうね。
でもね、ヴィヴィアン。この力は、ただ『無敵』になるためのものではないわ。
アルハイゼンに彼の過ちを『気付かせた』ように、人の心を、より良い方向へと導くための力でもある。
時には、傷ついた魂を癒すための優しい物語を見せてあげることも、できるかもしれない。
私とあなたなら、きっと救うべき人を救えるはずよ」